ワバチの主食は、ハチミツ と 花粉 です。
花蜜 は、ハチミツに加工することで、エネルギー効率 の良い燃料になるだけでなく、
防腐効果 をもたらし、長期の保存も可能にしています。
では、花粉の方は、加工していないのでしょうか?
花粉 は、ハチミツのような、積極的 加工は行っていないようです。
それは、花粉はあまり 貯蔵する必要がない ことと、関係がありそうです。
ここで、花粉団子が巣房に貯蔵されるまでを、見ていきたいと思います。
・花粉を採取する採餌蜂は、花粉団子を作り、巣へと持ち帰ります。
→ 採取蜂は、ハチミツを加えた 花粉団子 という形で、花粉を巣に持ち帰ります。
花粉団子は、両足で計 30㎎ 位にもなるようですね。凄い!!
(花粉団子は、こちらを参照)
・花粉団子は、採取した採餌蜂自らが、貯蔵巣房まで運びます。
→ 花蜜の場合は、巣門付近で 貯蜜蜂 に口移しで渡しますが、
花粉の場合は、持ち帰った採餌蜂 自身 で、花粉の貯蔵巣房まで持って行きます。
・貯蔵巣房まで運ぶと、中肢の剛毛を使って、巣房内に花粉団子を落とし入れます。
→ 花粉貯蔵用の巣房へ行くと、団子の付いている、後肢 を巣房内に入れます。
そして、中肢にある専用の 剛毛 を使い、花粉団子を巣房内に落とし入れるんです。
【 中肢の剛毛 】:花粉団子を外すために使う、専用の毛です。
(蜜と花粉を集める蜂より)
・巣房に落とされた花粉団子は、貯蔵係の貯蔵蜂によって、押し込められます。
→ 待機していた花粉貯蔵蜂によって、花粉団子はある程度噛み砕かれます。
この際に、少量の ハチミツ も加えられているようです。
そして、頭を使って巣房内に、ギュギュッ と押し込んでいくんです。
・押し込められた花粉は、地層のように何層にも積み重なります。
→ 様々な色の花粉団子が、何個も積み重なるので、その断面は、
まるで、地層 のように見えるんです。
【 何層にも積み重ねられた花粉団子 】:この状態を 蜂パン と呼んでいます。
このようにして、花粉団子は巣房に貯蔵されていきますが、
この何層にも積み重ねられた状態の、貯蔵花粉のことを、
「 蜂パン 」 (Bee bread)
と呼んでいます。
ワバチは、実際には、この 蜂パン を食べているということなんですね。
この蜂パンは、集める先から使われていきます。
基本的に花粉は、必要な時(特に育児期)に必要なだけ集められるので、
貯蔵期間は短く、長期に貯蔵 されることは 少ない んです。
せいぜい数週間、長くて1~2ヶ月といったところでしょうか。
ただ、長く巣房内に貯蔵される場合もあるので、ワバチは 一工夫!? をしています。
それは、
・蓋をすることでの防腐効果。
→ 長期貯蔵になる場合は、最後の花粉団子に多量のハチミツを加えて粘性を高め、
念入りに押し付けて、蓋 としているんです。
この蓋により酸素が入らず、酸素を好む 腐敗菌の活動を阻止 します。
・花粉に付く乳酸菌が作る、乳酸による防腐効果。
→ 花粉に付着している天然の植物性乳酸菌が、ハチミツ中の糖分を使って、
乳酸発酵を行い、乳酸を作り出します。
この乳酸は、pH(ペーハー)を下げ、蜂パンを酸性にする働きがあるんです。
酸性下では、腐敗菌は活動できなくなります。
因みにこの乳酸菌、味噌、醤油、漬物などにも含まれます。
・ワバチの体表にある、脂肪酸の混入による防腐効果。
→ ワバチの体表には脂肪酸が付いていて、接触によって蜂パンにも混入しています。
この脂肪酸は、乳酸同様、酸なので、防腐効果があるようです。
貯蔵花粉内 では、このようなことが起こっているのですが、
これは、ワバチが積極的に講じている工夫とうよりも、結果そうなっている、
と言った方がよいのかもしれません。
というのは、
ワバチにとって、花粉の長期保存は、特に メリットがない と思われるからです。
ある程度長期に貯蔵される蜂パンは、一部、発酵(半発酵!?)していますが、
これによって、花粉の栄養成分が変わることはありませんし、
幼虫の花粉消化を、助けているわけでもありません。
つまり、熟成的な長期保存は、必ずしも必要としないようなのです。
確かに、熟成が必須なら、もっともっと花粉を集めているはずですよね。
さて、
花粉は、植物の 雄性の生殖細胞 です。人で云えば、精子に当たるものですね。
植物細胞には 細胞壁 があるのが特徴ですが、
この細胞壁、花粉 にもあるんです。
花粉の外殻に当たる、細胞壁は、花粉壁 と呼ばれていて、
非常に硬い スポロポレニン という物質が含まれています。
【 様々な花粉粒 】:植物により形は異なりますが、固い殻で覆われています。
実は、この固い物質、ワバチには(人にも)消化できない んです。
実際、ワバチの糞を調べると、花粉の殻が消化されずに残っています。
ここで、一つ疑問が湧きます。
殻を消化できないのに、どうやって栄養素を吸収しているの?
それは、浸透圧 を利用しているんです。(余談を参照)
実は、花粉には、花粉孔 と呼ばれる小さな穴がたくさん開いていて、
この穴から、浸透圧によって栄養素が 花粉の外 に染み出てくるんです。
殻(花粉壁)は消化できなくても、栄養素を取り出すことは出来るんですね。
ちなみに、これは人でも同じなんです。
蜂パン(花粉)は、ワバチにとっては、体を作るために必要な、
唯一の タンパク源
ですが、これが無くなると、
ローヤルゼリーが造り出せないため、女王蜂の産卵が止まり、
幼虫の餌も途絶えるので、新たに働き蜂が生まれてこなくなります。
つまり、ワバチにとって 花粉不足 は 死活問題 なんです。
『 蜂パン は、ハチミツ よりも 重要!? 』
な食糧、と言えるかもしれませんね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
余談ですが・・・・・、
浸透圧について
浸透圧 という言葉は、良く聞くと思います。
これは、濃度の異なる、2つの溶液があった場合、
濃度の低い溶液(低張液)は、高い溶液(高張液)に移動しようとする性質のことで、
浸透圧というのは、この移動時に掛かる 圧力 のことなんです。
花粉の栄養素は、腸内 で吸収されます。
花粉内の栄養素(栄養液)は、浸透圧によって 外 に出てきますが、
これは、栄養液よりも、腸内の濃度の方が 高い(濃い)ということで、
栄養液(低張液)が、浸透圧により、
腸 内(高張液)へ吸い出される形になるわけです。
つまり、花粉内 から 花粉外 へ圧力(浸透圧)が掛かるために、
中の栄養素が、外に出てくるということなんです。
《 関連リンク 》
● 花 粉
● 花粉団子